メディ・カフェ@関西HP

【終了しました】第10回メディ・カフェ@関西「路上(みち)から生まれたプロジェクト~ホームレスのヘルスケアから考える、ひとはなにによって生きるのか~」

 

去る11月22日日曜日、大阪高槻市内「カフェコモンズ」にて、第10回メディ・カフェ@関西「路上(みち)から生まれたプロジェクト~ホームレスのヘルスケアから考える、ひとはなにによって生きるのか~」を開催しました。
話題提供してくださったのは、医師の西岡誠さん。ちょうど一年前に、第7回メディ・カフェ@関西コーラと「ホームレス」~あなたなら、どこでどんな未来を生きたいですか?~」にご登壇いただいた精神科医森川すいめいさんとご一緒に、世界の医療団東京プロジェクトのボランティア医師として活動されています。
大阪ご出身で帰省中の西岡さんは、年末におせち弁当の差し入れをしている奥さまと、ホームレスのおっちゃんたちに可愛い笑顔をふりまいている、2歳の息子さんと一緒に、ご家族で来てくださいました。
この日、11月22日は「いい夫婦」の日ということで、奥さまにもふとんで年越しプロジェクトに差し入れしている手製おせち弁当のお話をしていただきました。

 

路上から生まれたプロジェクト
~ホームレスのヘルスケアから考える、ひとはなにによって生きるのか~スピーカー:西岡誠さん

 

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ホームレスの「健康問題」?

ホームレス状態になったのは、気ままな暮らしが好きな人たちが自由意思で選んだ生き方、あるいは、集団生活の決まりを守らず、コツコツ働くのが嫌で好き勝手してきた結果なのだから、すべて自己責任と思われてしまいがちなホームレスの人たちですが、本当にそうなのでしょうか。
ホームレス状態に陥る理由や背景は、様々です。参考:なぜ「ホームレス」が生まれるのか、なぜ抜け出せないのか(特定非営利活動法人 TENOHASIホームページより)
路上生活者の半数以上は、建築現場などでの日雇い労働や、社会保障がない非正規雇用で仕事についています。収入も不安定で、仕事がなければ収入も減り、家賃や光熱費などが払えず、住居を退去せざるをえません。病気やけがで働けなくなると、さらに困窮し、食事も十分にとれず、医療も受けられずに状態がさらに悪化しても、生活保護福祉制度を利用することに「家族や他の人にも迷惑をかけたくない」と考えて強い抵抗があったり、社会的に孤立し、助けてくれる制度についての情報を得られないなど、様々な事情で路上での生活を余儀なくされているのです。
また、世界の医療団などの調査により、東京で路上生活をしている人の約半数に知的、精神、発達障害認知症などの障害や病気を抱えていることもわかっています。

 

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路上生活が健康に及ぼすリスクも深刻であり、大阪市内での調査では、ホームレスの人たちの死亡時平均年齢56.2歳、死因の内訳は病死59%、自殺16%、不慮の外因死15%。病死は心疾患、肝炎、肝硬変、肺炎、肺結核、脳血管疾患の順に多く、野宿者の死亡率は全国男性の平均を1として、心疾患3.3倍、肝炎肝硬変4.1倍、肺炎4.5倍、肺結核44.8倍、自殺6.0倍(逢坂隆子ら平成15年大阪市におけるホームレス者の死亡調査)という調査結果がでています。

世界の医療団東京プロジェクトでは、池袋を中心に、炊き出しや夜回りや医療相談などの支援活動を10年以上続けてきました。しかし、ホームレスの人たちの生命を脅かしている病気の治療や、健康問題を根本的に改善しようと思えば、やはり、路上生活からの脱出が必要です。しかし、東京には、簡易宿泊所やシェルターなどはたくさんありますが、中には「貧困ビジネス」と思しき粗悪なものが多く、そういった劣悪な住環境(参考:年金が生活保護以下で「老後破綻」 漂流し、搾取される高齢者 〈週刊朝日〉|dot.ドット 朝日新聞出版年金が生活保護以下で「老後破綻」 漂流し、搾取される高齢者)から逃げ出し、過酷な路上生活に戻ってきてしまう人も少なくありません。



「ハウジング・ファースト」~まず住居からはじめよう~

こういった路上生活者についての問題は、欧米でも共通していて、各地でさまざまな調査や取り組みがされてきましたf:id:medicafewest:20151122141503j:image:medium:right

 

 

イギリスのホームレス平均死亡年齢は47歳。「依然として、ホームレス状態の人々の健康に深刻な影響を与え続けている。一般人口に比し、感染症及び慢性疾患、劣悪な精神衛生、依存症のリスクが高く、暴力の被害を受けやすい、また死亡率は4~7倍高い。(アメリカ疾病予防管理センターCenter for Disease Control and Prevention)

中でも最近注目されているのは、欧米のホームレス支援団体が実践している「ハウジング・ファースト」というアプローチです。
ハウジング・ファーストとは、路上生活からの脱出の為には、プライバシーが守られ、清潔で快適な住居を得ることが最優先という考え方であり、依存症の治療や自立訓練をへて就労を確保した人から、住居を得ることができると言う日本従来のシステムとは大きく異なります。
欧米での実践では、路上生活に戻ってしまう人が圧倒的に少なく、医療費や介護費が減少して、結果的にトータルコストが低くなることがわかっています。
日本でも、徐々にハウジング・ファーストの理念が広まり、東京都渋谷区では、渋谷区長の協力をえて、日本初の公的ハウジングファーストプロジェクト「アイ リブ シブヤ プロジェクト」が始まろうとしています。世界の医療団からもコーディネーターの中村あずささんが、プロジェクトメンバーの1人として参加されています。

こうして長年ホームレス生活をしてきた人でも、安心して暮らせる住まいがあれば、再度路上に戻ることなく、安定した暮らしを続けられることがわかってきました。

しかし、住まいがあれば、それでいいのでしょうか?西岡さんは、住居を得たあとの支援が重要だといいます。
路上生活者には、路上生活者同士の繋がりがあり、アパートに入居することで、その繋がりが断たれ、孤立して部屋に引きこもってしまうケースも多く、東京プロジェクトでは、アパート入居後も、パソコンや料理教室や農業体験などを企画したり、アパートに入居した後も孤立しない為の支援を『ビヨンド ザ ハウジングファースト』として様々な取り組みを行っています。
また、住居を得て、路上生活を脱した元ホームレスの人たちが、炊き出しや夜回りなど、ホームレスの人たちの為の活動で、ボランティアをまとめるリーダーになったり、1人で食事をする子どもたちに、にぎやかで楽しい食事の場を提供する要町あさやけ子ども食堂へ、焼きたてのパンを届けたりもしています。



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敷居が低くて、気難しい医者のいないクリニック始めます

森川すいめい氏をして「ホームレスの人たちの健康問題に情熱を燃やす名内科医」と言わしめる西岡誠医師が、最も情熱を傾けているプロジェクトが、来年4月開業予定の「ソーシャルワーカーズオフィスクリニック」です。精神科医である森川すいめいさんと内科医の西岡さんが診療を行います。

西岡さん「ホームレスの人たちは、医療を受けたいと思っても、症状や自分のことをうまく説明出来なかったり、コミュニケーションが難しいこともあり、医療機関から敬遠されることも多い。また、今ある辛い症状は、なんとかしてほしいが、長期の治療を続けて行くことはなかなか難しい。エネルギー制限や減塩が必要でも、低賃金で過酷な仕事の為には、安価で塩分の多い食事を摂らざるをえません。そういうホームレスの人たちの事情や心理を理解した上で、親切で、質の良い治療を提供できる、敷居が低くて、気難しい医者のいないクリニックが必要です。
また、路上から抜け出した人たちが、路上に戻らない為の支援活動をしていく主力は、医師ではなく、ソーシャルワーカーやナースですが、ボランティアでの活動では、限界があります。ですから、ソーシャルワーカーズオフィスクリニックでは、ソーシャルワーカーやナースが支援活動に集中し、存分に力を発揮できるよう、ちゃんと生活していけるだけの給料を払います。医者の給料は最低賃金です(笑)」




「おせち」はいかが?~ふとんで年越しプロジェクト番外編 スピーカー 西岡さんの奥さま~

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ふとんで年越しプロジェクトとは・・・https://motion-gallery.net/projects/futon-toshikoshi2015
行政の窓口が休みになる年末年始、新宿、渋谷、池袋、山谷地域などで、各団体がをおこなう「越年・越冬活動」で、路上生活を送る人や仕事も家もなくネットカフェなどで過ごさざるを得ない人々に、出来るだけ温かい部屋で過ごしてもらえるシェルターを用意しようと立ち上げたプロジェクト。
もちろん西岡さんも一年目より「常にあつい」ボランティア医師として参加されています。
参考:ホームレスの居場所、ホテルのシングルは贅沢なのか。「ふとんP」の6日間から考える(ハフィントン・ポスト)


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奥さまは、西岡さんから「ふとんで年越しプロジェクト」の話を聞き、
「年末年始は行政の窓口だけじゃなく、いろんなお店も休み。
一旦シェルターに入った後出かけるのもたいへんだろうし、
お正月だし、おせちでも持っていく?」と差し入れを申し出たそうです。

もともと料理が好きで、例年、おせち料理も家族だけじゃなく、親戚や友人にも作って持って行ったりしていたという奥さま。
シェルターにおせち料理を差し入れした最初の年は三段の重箱に詰めて、西岡さんに持って行ってもらいましたが、あとでスタッフが人数分に分けていると聞きました。それでは、かえって手間がかかるし、衛生面でも問題があると考え、二年目の昨年は、おせち料理助六(巻きずしといなりずし)を30人数分にわけて弁当にすることにしました。

 

料理の品目もおせちらしいものに絞って、27品目から18品目に変更し、手元にのこせるように日持ちする和菓子を追加。

このおせち弁当は、たとえば伊達巻ひとつとっても、鯛の切り身ですり身をつくるところから手作りです。数日かけて1人で調理し、折詰にわけて詰める作業は、友人や知人に手伝ってもらいました。

 

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おせち弁当の差し入れのお話は、関西で長らく支援活動をされてきた参加者の方々の関心も高く、

「お正月には御雑煮が食べたいという声も多いです。しかし、作ってあげたくても、屋外で大量に調理する炊き出しでは、餅は溶けてしまうので出来なくて残念だったんですが、おせち料理なら、何か出来るかも・・・」と懇親会の間も、準備や調理のスケジュールの立て方などのおせち談義で盛り上がっていました。

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(後日談・・・2015年度も、20食分のおせち弁当を差し入れされたとのこと。お疲れ様でした。)


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西岡さんご夫婦それぞれの話題提供をうけて、このあとは、関西の各方面で活動されている方々や、医療、福祉関係者、福祉を学ぶ学生さんや大学の先生らと意見交流となりました。

懇親会も引き続き「カフェコモンズ」でお世話になりました。味のしみた温かいおでん鍋を中心に、今回も美味しい料理ばかりで、参加者の皆さん同士で話も弾み、とても盛りだくさんな一日となりました。(文責 山根)


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