メディ・カフェ@関西HP

【終了しました】第7回メディ・カフェ@関西 コーラと「ホームレス」〜あなたなら、どこでどんな未来を生きたいですか?〜」

「てっとり早く効果的に生産性をあげる方法は、何を行うべきかを明らかにすることである。そして、行う必要のない仕事をやめることである」
ピーター・ドラッカー


去る11月17日日曜日、京都のアンテナカフェ丸太町にて、NPO法人TENOHASI代表の精神科医、森川すいめいさんをお招きして、
第7回メディ・カフェ@関西 コーラと「ホームレス」〜あなたなら、どこでどんな未来を生きたいですか?〜」を開催しました。
京都は行楽シーズン真っ最中、最高の人手で賑わう中、お越しいただいた皆様、ありがとうございました。

森川すいめいさんは、線の細いもの静かな方で、地元民なのに方向音痴の私に、思いっきり反対方向に歩かされても、笑顔で許してくださいました。ほんとに失礼しました。
会場は前回と同じ、アンテナカフェ丸太町。20人弱の参加者で、すいめいさんを囲み、参加者同士の距離も近く、非常にぜいたくな会となりました。進行は、簡単な挨拶のあとは、すいめいさんにお任せし、私も一参加者として、ワークショップやディスカッションに参加させていただきました。


オープニングでは、前日に立教大学で開催された東京都成人(大人)発達障害当事者会「コミュニケーション・コミュニティ」イイトコサガシさんとのイベントで紹介されたストレッチで緊張をほぐし、「あいうえお自己紹介」で割り振られた50音の行の5文字を頭文字に短い自己紹介。振り分けられた行によっては、とっても難しかったのですが、たとえば私はあ行プラス小さな「つ」。「あっという間に最近寝てしまう山根です」「いっかいは反対方向に歩いてし合う方向音痴な山根です」「うっとうしい性格の山根です」・・・という感じです。頭を使いましたが、楽しく、ワークショップに入る前に参加者同士で打ち解けられてとても良いやり方だと思いました。


「コーラ」とは?


精神科医であるすいめいさんのところを訪れる患者さんの多くが、「夜眠れない」という悩みをもってこられます。
不眠を訴えられると多くの精神科医が睡眠導入剤を処方し、薬が効かなくなると薬が増えたり、強いものに変更になったりしますが、よくよく患者さんの話を聞いていると、夜寝る直前まで、コーラを飲んでいるということがあります。飲むとすっきりして、元気が出るコーラにも、コーヒーやお茶と同じくカフェインが含まれています。
なぜ、コーラを飲むのかと尋ねると「日中眠いから」
おそらく、夜寝つきが悪く睡眠が足りない、あるいは睡眠導入剤が翌朝も残って眠くて、日中の仕事や活動に支障があり、眠気予防のためにコーラなどを多く飲む→余計に眠れなくなる→睡眠不足・・・の悪循環に陥っているのではないかと考え、「夜コーラを飲むのはやめましょう」というと、睡眠導入剤に頼らなくても眠れるようになるのだそうです。
「コーラはカフェインを含む飲料水である」ことと「その患者さんがコーラをたくさん飲んでいること」を知っているだけで、患者にとって、本当に必要なものが見えてくる、そういうヒントを知っていると支援の仕方が変わり、効果も絶大というわけです。
「コーラ」は、そんなヒントのひとつなのでした。

(例)
「ばあちゃんがほしかったのは、洗濯機じゃなかった」
東日本大震災の避難所で暮らしていた、あるばあちゃんは、洗濯機がほしいと思っていました。しかし、念願の洗濯機が届いても、ばあちゃんはうれしくありませんでした。
届いた最新式の洗濯機はばあちゃんには使い慣れないものでした。それでも、説明書を読み、悪戦苦闘しながら洗濯しようとしていると、ボランティアの人たちが「いいよ、いいよ!私たちでやっておくから」と取り上げてしまったのです。
ばあちゃんが洗濯機を要望したのは、毎日瓦礫を片付け復興のために働いているばあちゃんの子供たちのため、自分は何も出来ないことを歯がゆく重い、洗濯機があれば、自分も子供たちの洋服を洗濯してやることができる、自分も働くことが出来るとおもって要望したのです。洗濯機が来ても、人に迷惑かけて世話になるばかりで何も出来ない・・・ばあちゃんはすっかり気落ちしてしまったそうです。
「自分にも出来ることをやりたい、子供たちのためにしてやりたい」
そんなばあちゃんの本心を知らないでいたら、落ち込んでいるばちゃんの態度は不可解なものにみえるでしょう。
ばあちゃん自身も、自分が本当に必要としているのが「洗濯機」ではなかったことに気がついていなかったかもしれません。


「WANT」と「NEED」



このような行き違いは、行政と住民の間にもよく起こります。
住民の要望としてあがってくることが、必ずしも、本当に住民にとって必要なものではないことが多く、要望のひとつひとつが通ったとしても、何も解決していないということがあると、行政と住民の間の溝が広がります。行政や医療、福祉関係者などの支援者側からすれば、支援を必要としている当事者の要望を聞いてかなえても、ちっとも改善しないし文句まで言うとなれば、「当事者はわがまま」だと思ってしまうかもしれません。なんとか当事者のために要望を叶えようとする熱意のある行政担当者や医療、福祉従事者ほど、次々不満ばかりをいう住民との軋轢に心が折れてしまうかもしれません。

睡眠導入剤や洗濯機のようなリクエスト(WANT)は、その物があればいいということではなく、本当に必要な、その人が抱えている問題の解決法(NEED)は別にあることが多いのです。

この問題について、すいめいさんは、支援者が、当事者の人の話をたっぷり時間をかけて聞き、自分だったらどうか、どういう未来を生きたいのか、そのために何が必要かを共に考えていくことで、本当に必要な支援=NEEDがわかるとおっしゃっていました。
当事者本人でさえ気づいていないNEEDを探る。時間も手間も大変かかるように思いますが、NEEDがわかり、支援の方向がわかれば、こまごまとした要望(WANT)に振り回されず、効率も効果もあがるし、支援が無駄のない楽なものになるし、何より当事者が救われます。
現場はどこでも、人手も予算も足りず、問題は山積しています。一人一人とゆっくり話をしたくても、不可能なのが現状だとおもいます。
すいめいさんは、日々の活動や診療の中で、当事者にとってのNEEDを探り適切な支援策を考えるために、ピーター・ドラッカーの「マネジメント」やコトラーの「マーケティング3.0」などを参考にされているのだそうです。

ここまで、すいめいさんから、さまざまな「コーラ」にかわるヒント探しについてのお話を聞いた後、ワークショップとなりました。



栃木県で、二ヶ月間野宿をしていた70代の女性が、2時間で路上から脱出できた理由を考える
立ち話ワークショップ、ワールドカフェ風


後半は実際にあった事例をもとに、「ホームレス」といわれている人たちのさまざまな事情や背景や現在の心理など、さまざまな参加者の視点で意見を述べ合い、共有しました。


多様性の包摂


ホームレスの人たちが生活保護を申請しようとするとき、問題になるのは何か?
そもそも、路上生活は悪いことなのか?ホームレスの人たちは、自分たちで望んでいるのではないか?という疑問に対して、実際に、東京や京都でホームレス支援をされている人たちから、路上生活が危険であること、京都でも凍死者がでていること、字が書けないことが恥ずかしくて申請できなかったり、生活保護の申請に窓口までいっても、いろいろと言われて申請をうけつけてくれない「水際作戦」で跳ね除けられたり、「生活保護は人様の税金なのだから、自分はお世話になる資格がない」と思う人や、福祉の世話になることを恥だと思う人もいるという話もでました。実際の福祉行政の現場も、問題はありますが、親切に対応してくださるところも少なくなく、「福祉制度」そのものを良く知らなかったり、悪いイメージを持っている人もいるのではないかという意見もありました。
また、申請することで家族に迷惑がかかる、虐待から逃げてきたのに居所が家族にわかってしまうのを恐れて申請できないというという人もいます。

福祉とつながり、福祉施設に入所しても、家族のもとに帰っても、路上に戻ってくる人も少なくありません。
アブラハム・マズローは、食べたり眠ったりという生理的な欲求がまず満たされて、その上に承認され、自己実現への欲求が生まれるとしていましたが、後年、自己実現ができ、自分として承認される場でこそ、安心して暮らせるのではないかと考えていたという話もお聞きしました。※マズローの逆ピラミッド
規則で縛られ、いやな事をいやだともいうことができず、施設での生活ができない人や、家族から肉体的、精神的、性的虐待を受けていたり、機能不全家族の中で育ち、家の中では、自己肯定感を保てず苦しい思いをしている人もいます。家族や親戚から離れなければ、一人にならなければ、自分を大事にして生きていくことが出来ない人もいます。
参加者の方からも、障害や病気が原因で路上生活をしている人も多いというお話もありましたが、実際、すいめいさんたちが調査された結果、東京で路上生活をしている人の約半数に知的、精神、発達障害認知症などの障害や病気を抱えており、3割がIQ70以下の知的障害障碍者手帳取得可能だとわかったそうです。
この話は、前々回の山本譲司さんのメディ・カフェ「障碍者の罪と罰」でもありましたが、障害があっても、福祉につながらず、まともに仕事もできないので、周囲から「ばか」「ぐず」「のろま」などといじめられて地域や家族からも疎外され、置き引きや無銭飲食などの罪で服役したり、出所しても帰るところがなく、路上生活をしている人もいます。
ホームレスの人の男女の比率について、2013年4月の時点で、男女別では男性7671人、女性254人という大きな差があるのはなぜかという疑問もでました。
女性の野宿者はほとんど性産業につれていかれてしまうとのことでした。件の栃木の70代の女性も例に漏れず、高齢者でも子供でも「買う」人がいる現実も知りました。


選択の機会が少ない


ホームレス状態の人の多くが、「あなたは、どうしたいの?」と聞かれたこともなく、選択をする機会も与えられていないのです。
自分で自分のことを決める、したいことを選ぶというのは、機会を何度も与えられてこそ出来ることだと思います。一度くらい「どうしたいの?」と聞かれても、誰も、自分のNEEDなんてわからないし、正しい選択は出来ないでしょう。その結果、困窮していても「自己責任」を問われる社会で、唯一の居場所が路上であるという人もいるでしょう。


ワークショップは、さまざまな意見を共有する場であり、正解はありません。ここで重要なのは、「ホームレス状態になる理由」「ホームレスの人たちの抱える問題」も、これほどに「多様」なのだということです。
「ホームレスというのは、○○だから」という決め付けや支援の押し付けではなく、目の前にいる、「この人」にとって、必要なことは何なのか、路上にいたいのか、アパートや施設に入るほうがいいのか、家族の下にかえりたいのか・・・やはり、一人一人のNEEDをじっくり一緒に探ることが必要なのです。

森川すいめいさんが代表をされているTENOHASIでは、ホームレス状態の人たちの命を守る活動をされています。
東京一美味しいと評判の月に二回の炊き出しと毎週水曜日の夜回り、日常の生活支援や福祉相談、手続きの付き添いなど、安全に野宿できる町であるために、10年間これらの活動を続けてこられました。
私も、TENOHASIの炊き出しに参加させていただきました。体験談はこちらにアップしてます。

この年末は、東京都全体で「越冬作戦」が行われるそうです。関心のある方、協力してくださる方はTENOHASIのHPをごらんください

越年越冬活動@池袋のおしらせ

尚、メディ・カフェ当日、みなさまにご協力いただいたご寄付は、TENOHASIへ送金させていただきました。ありがとうございました。




2時間半という短い時間では、まったく足りない!もっとお話を聞きたい!!と、メディ・カフェ終了後の懇親会のも、ほぼ全員に近い方が参加してくださり、最後まで非常に盛り上がりました。今回であった皆様の活動や研究に活かせるネットワークが生まれたら、うれしいです。

最後に改めて、森川すいめいさん、
本当に遠いところから、遅い時間までお付き合いくださり、ありがとうございました。
すいめいさんの紹介してくださったヒントや知識、支援にマネージメントを取り入れる考え方は、参加者のみなさまがすぐに実践していただけると思います。
それらは、ただ、知っていればいい、教わったら出来るということではなく、すいめいさんも参加者の皆様も、ドラッカーの言う、人から教わって身につけられない「真摯さ」という才能をもともと持っていらしゃるのだと思います。

すいめいさんには、まだまだお聞きしたいことがたくさんあるので、是非またご招待できるように、私たちもがんばっていきたいとおもいます。