メディ・カフェ@関西HP

第5回メディ・カフェ@関西「障害者の“罪と罰”〜本当の償いと更生と支援を考える〜」終了

去る12月15日、第5回メディ・カフェ@関西「障害者の“罪と罰”〜本当の償いと更生と支援を考える〜」
を開催しました。
この夏できたばかりのNPO法人パブリックプレスの承認記念イベントです。
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パブリックプレス代表熊田理恵さんより、あいさつ

ゲストの山本譲司さん


NPO法人「パブリックプレス」の認証記念イベントとして企画し、パブリックプレスのご協力を得て、東京より、元衆議院議員山本譲司さんをお呼びすると言う、メディ・カフェ@関西始まって以来最大のミッションで、非常に緊張していましたが、時間どおりに会場である会議室にきてくださった山本譲司さんは、想像以上に気さくで明るく、すぐに、来場者に話しかけてくださったりで、こちらの緊張もすぐにほぐれました。

「毎年新たに刑務所に送られる受刑者の2割が、何かの障害があり、支援を必要としているということに加え、
全受刑者の9割が知能指数100以下である。」
こういえば、障害があるから、知能が低いから犯罪を犯しやすいという捉え方をされる恐れがあります。
彼らの多くは、障害者手帳をもたず、福祉との繋がりもありません。つまり、逮捕されるまで、「障害者」として生きてきたわけではなく、学校や地域で、あほやノロマといって馬鹿にされたり、生産的なことが何もできない、コミュニケーションがとれないからといって仕事にもつけず、あるいは、義務教育さえまともに受けずに生きてきた人たちです。
“障害がある”ということよりも、障害があるのに、家族や周囲との繋がりや、福祉の支援や、安心して過ごせる“居場所がない”ことが、お金もなくて、誰に助けを求めていいかもわからずに、空腹に耐えかねて無銭飲食や万引きや窃盗などの罪を犯してしまう原因になっています。
刑務所を出ても、身元を引き受けてくれる人や行き場所がなければ、出所したその日からホームレスということもあります。刑務所から出所した人の身元を引き受けてくれる更生保護施設も、予算が苦しく寄付に頼っているのが実情で、周辺住民の理解なくして存続が出来ず、トラブルを起こしやすい障害者の受け入れは難しいのです。
一方、障害者施設でも、同じ理由で、法に触れる行為をした人を受け入れる余裕がありません。
障害があるから仕方ない、万引きや無銭飲食は軽微な罪だから許せというのでもなく、そういう罪を犯してしまう経緯を考えず、ただ、数年刑務所に入れておいて刑期が満了すれば出所ということだけでは、同じことを繰り返すだけであり、彼らの実情にあった社会復帰の為の訓練や出所後の受け皿が必要です。
山本さんは、この問題を解決する為に、福祉関係者らとともに「障害のある人受刑者の出所後のシェルター作り」に取り組んでこられました

近年では、法務省厚生労働省が連携することにより、山本さんも協力された罪を犯した障害者や高齢者の社会復帰を目指す取り組みが行われ、徐々に成果をあげています。
島根あさひ社会復帰促進センターなど障害者特化ユニットのあるPFI刑務所(民間の経営能力や技術を活用し、公共施設を建設したり運営したりする)の建設運営、障害者が地域で生活していく為の支援活動をする地域生活定着支援センター事業もはじまり、今年、全国に地域生活定着支援センターが作られました

一般社団法人 全国地域生活定着支援センター協議会

山本さんの活動は、更に続き、厚生労働省「罪を犯した障害者の地域生活支援に関する研究会」の研究員もされていますが、「本当は、『罪を犯した』だけじゃなく『罪を犯さざるを得なかった、罪を犯したことにされている障害者』の地域生活支援なんです」と仰っていました。
実際に罪を犯した人ばかりではなく、やってもいないことを自白させられたり、まともに取り調べもうけられないまま刑に服している人も多いのです。刑法39条も、軽微な罪に対して精神鑑定を行われないことが多く、適用されないといいます。
孤立している障害者が、「不審者」として通報され、警察官らに対して抵抗したら公務執行妨害や傷害罪で逮捕されています。その背景には、近年日本で恐ろしい犯罪が増えている、日本の治安が悪化しているという認識があるようですが、現実には、殺人事件のほとんどが怨恨であり、通り魔的な凶悪犯罪は減っています。「心の闇」と揶揄される少年による理解不能な残虐な事件も、現代はとても少ないのです。(戦後最も多かったのは、「ALWAYS 三丁目の夕日」の舞台である昭和30年代です)

山本さんの講演のあと、ティーブレイク。差し入れしてくださった皆様、ありがとうございました


休憩のあと、質疑応答

講演会終了後、持っていった「続獄窓記」にサインをしていただきました
「続獄窓記なんて読んでくれたの?」と仰っていましたが、私は、「獄窓記」「累犯障害者」「続獄窓記」の中で「続獄窓記」が一番好きです。
「獄窓記」執筆にかかるまでの忸怩たる思い、ポプラ社第三編集部から出版されるまでの経緯、出版後の反響、知的障害者の刑事事件を専門に活動している江藤弁護士(仮名)や後の活動に繋がる沢山の人との出会いと出来事の数々が、どれもドラマチックで本を読むのが苦手な私が一気に読んでしまった珍しい本です。
感想を非常にざっくりいうと「人間っていいなあ」
愛と勇気と希望を感じられます。しかし、それは、福祉と社会の制度のすき間に自分の意思で落ちたのではなく「落ちこぼされた」弱者の、余りに悲惨で過酷な現実の中に光っている唯一の救いだからですが。
ともあれ、それぞれの現場で、同じ問題意識を持って改善しようと奮闘している人がいるということ、そういう人たちが、一冊の本と山本譲司さんという活動家によって出会い、結びつくことで物事が変わっていったことも事実です。山本さんと共に、出所後の障害者や高齢者の社会復帰や居場所作りに奔走する人々の活動や働きかけは、講演の中でも言われていたように、触法障害者や高齢者に限らない多くの人々にとっても、この社会に生きる私たち全てにとっても、生きやすい社会作りに繋がっています。
山本さんがサインと一緒に書いてくださった座右の銘、悪いことが続いたあと、ようやく物事がよい方に向かうことという意味の「一陽来復」も、そんな希望を持って、これからも活動されていく山本さんらしいお言葉だと思いました。

参加者アンケートにも沢山書いていただきましたが、山本さんの講演は、非常に貴重なお話ばかりで意義深く、熱弁をふるっていただき、本当に有難いと感激しました。ただ、予定時間を超え、お話にも登場した地域生活定着支援センターの方をはじめ、福祉関係者や、特別支援教育発達障害者支援に携わる方々や学生など多士済々の参加者による、メディ・カフェの目玉である質疑応答や意見交流の時間が殆どとれなかったのが、唯一残念でした。